横浜お灸研究室 関元堂温灸院

横浜市のお灸専門 関元堂温灸院

灯る想い

1. 静寂の夜


夜の街は静まり返り、窓の外には月明かりが淡く差し込んでいた。

 

ユナは自室のデスクに座り、古びたお灸の箱をじっと見つめていた。

 

その箱は、祖母が彼女に手渡した最後の贈り物だった。

 

「ユナ、これを使って、心を落ち着けなさい。灯りは心の中にもあるのよ」

 

祖母の言葉が今でもユナの心に残っていた。

 

彼女はしばらくその箱を開けることができずにいたが、今夜は何かが違っていた。

 

心の中に眠っていた不安や寂しさが、どうしようもなく溢れ出していたのだ。

 

ユナはゆっくりと箱を開け、中から取り出したもぐさを手に取った。

 

それは柔らかく、かすかに草の香りがした。

 

彼女はそのもぐさを丸め、火をつけてから、胸のあたりにそっと据えた。

 

じんわりと広がる温かさが、冷えた心を包み込む。

 

「お灸ってこんなに温かいんだ……」

 

ユナはつぶやき、目を閉じた。

 

祖母がよく言っていた「心を灯す」という言葉の意味が、少しだけ分かった気がした。

 

 

2. 消えない灯火

 

次の日、ユナは学校でいつもと違う気持ちを感じていた。

 

周囲のざわめきやクラスメイトの笑い声が、なぜか以前よりも遠くに感じられた。

 

彼女の中には、昨晩のお灸の温かさがまだ残っているようだった。

 

放課後、ユナは親友のミサキに昨夜の出来事を話した。

 

ミサキはユナの話を聞きながら、興味深げに言った。

 

「それってすごいね。心を落ち着けるためのお灸なんて、まるで魔法みたいじゃない?」

 

「魔法かもね。でも、それが今の私にとっては必要だったのかも」

 

二人は帰り道を歩きながら、夕暮れの空を見上げた。

 

陽が沈み、街に灯りが灯り始めると、ユナの心にもまた温かい感覚が戻ってきた。

 

彼女はその灯りを胸に抱きしめるように、しっかりと歩みを進めた。

 

 

3. 次の朝、次の夢

 

その夜、ユナは再びお灸を据えた。

 

今度は、祖母の言葉を思い出しながら、心を落ち着けていく感覚を楽しんだ。

 

熱が彼女の心の奥底まで届くような気がして、彼女は不思議な安心感に包まれた。

 

「ありがとう、おばあちゃん」

 

ユナはそっとつぶやきながら、目を閉じた。

 

そして、そのまま静かに眠りに落ちた。

 

夢の中で、彼女は祖母と再会し、笑いながら話をしていた。

 

そこには、穏やかな時間と、消えない灯りがあった。

 

朝が訪れ、ユナは新たな気持ちで目を覚ました。

 

彼女の中には、昨晩感じた温かさがまだ残っていた。

 

そして、それは新しい一日を迎える勇気となった。

 

「今日も頑張ろう」

 

ユナはそう言い聞かせ、自分自身に微笑んだ。

 

彼女の中には、今でも小さな灯りが消えることなく灯り続けていた。

 

それは、これからも彼女を照らし、導いてくれるものだった。

 

そしてユナは、次の夢に向かって歩き出した。

 

胸の奥で温かく燃えるお灸の灯りを頼りに、新しい日々が続いていく。

 

彼女はその灯りを決して忘れないだろう。

 

それが、祖母からの最後の贈り物であり、彼女自身の心を強くするための、最も大切なものだったからだ。