いつも静まり返ったこの家で、私は一人、古い畳の上に座っている。
窓から差し込む陽の光は薄暗く、どこか寂しさを感じさせる。
母が亡くなってからというもの、この家には温もりが消え失せたように思える。
私は机の引き出しから、小さな温灸セットを取り出した。
これは母が大切にしていたもので、彼女はいつもこれを使って体を温めていた。
母の手の温もりがまだ残っているかのように、道具はひんやりとしていた。
母が温灸をしていた姿を思い出すと、涙が自然に溢れてくる。
彼女は病気で苦しみながらも、いつも笑顔を絶やさなかった。
私もまた、母と同じように温灸を始めることで、彼女の記憶と向き合おうとしているのかもしれない。
私は慎重に艾を火にかけ、小さな火を見つめた。
火が揺れるたびに、母の笑顔が浮かんでは消える。
母が教えてくれた手順通りに、体のツボに温灸を置いていく。
じんわりとした温かさが広がり、心の奥底まで届くようだった。
「温かいね、母さん」
私は呟いた。
温灸の熱は、まるで母の手のように感じられた。
その温もりが、私の心を少しずつ癒してくれるのを感じた。
母が亡くなった日、私は何もできずにただ泣き崩れた。
彼女の最後の言葉が、耳に残っている。
「いつでもそばにいるからね」
その言葉を信じたかったが、現実の冷たさが私を襲った。
温灸の熱が、私を包み込む。
母の記憶と共に、この熱は私を支えてくれる。
彼女が私に教えてくれたこと、それは愛と強さだった。
私はその教えを胸に、前を向いて歩いていかなければならない。
温灸を続けるうちに、私は少しずつ心が軽くなっていくのを感じた。
母の愛が、私を包み込んでいる。
温灸の熱は、ただの治療ではなく、母との絆を再び感じさせてくれるものだった。
夜が更け、静かな部屋に一人でいると、私は母の温もりを感じる。
彼女が私に残してくれたもの、それはこの温灸の熱だった。
私はこれからも温灸を続け、母の愛を感じながら生きていく。
母が教えてくれた強さと愛を胸に、私は新たな一歩を踏み出す。
温灸の熱が、私を支えてくれる限り、私は一人ではない。
母の温もりを感じながら、私は静かに前を向いて歩き始めた。