暗闇の中、私は一人静かにお灸を据えていた。
部屋の中はほとんど無音で、時折窓の外から聞こえる風の音だけが、孤独な心に寄り添っていた。
お灸の小さな火がぼんやりと揺れ、その光と共に部屋の片隅に影を落としていた。
お灸の香りがゆっくりと立ち昇り、私はその香りに包まれながら、心の中にある深い傷を見つめていた。
誰もいない部屋の中で、ただ一人、自分自身と向き合う時間。
お灸の温もりが、冷え切った心をじんわりと溶かしていく。
背中に広がる熱は、まるで過去の記憶を呼び覚ますかのようだった。
あの頃、祖母はよく私にお灸を据えてくれた。
彼女の手は温かく、その手つきは確かなものだった。
お灸の温もりは、祖母の愛情そのものだった。
だが、祖母が逝ってからというもの、お灸のことなど忘れていた。
今夜、ふと思い出したその温もりに救いを求めていたのだ。
心の中にある孤独や悲しみを少しでも癒すために。
目を閉じると、部屋の中はさらに暗くなり、過去の記憶が鮮明に浮かび上がってくる。
お灸の煙が、まるで幽霊のように揺らめき、その中に祖母の微笑みが見えた気がした。
彼女の優しい声が、遠い記憶の中から聞こえてくる。
「お灸はね、体だけじゃなくて、心も癒すんだよ」と、祖母は言っていた。
その言葉の意味が、今ようやく理解できた気がした。
お灸の温もりが、心の奥底にある傷をじんわりと癒してくれる。
その感覚は、まるで長い間忘れていた温かな記憶に再会するようなものだった。
夜が深まるにつれて、お灸の熱は次第に和らぎ、部屋の中は再び静寂に包まれた。
だが、その静けさの中にある温もりは、私の心に深く染み込んでいた。
孤独な夜でも、お灸の温もりがあれば、少しは心が安らぐ。
お灸の火が完全に消えると、私は静かに目を開けた。
暗闇の中で感じるその余韻は、まるで祖母の手が再び私を包んでくれたかのような錯覚を覚えた。
心の中の冷たさが少し和らぎ、温かな灯がともる。
この夜、私はお灸の温もりに包まれながら、再び生きる力を取り戻すことができた。
お灸の香りが、私の心を癒し、過去の記憶と共に新たな希望をもたらしてくれる。
その温もりの中で、私は再び歩み出す力を感じたのだった。