横浜お灸研究室 関元堂温灸院

横浜市のお灸専門 関元堂温灸院

温熱の真実

冬の寒さが厳しい夜、東京の片隅にある古びた鍼灸院の明かりが、薄暗い路地を照らしていた。

 

そこには、静かにその時を待つ男がいた。

 

彼の名は井上康介、探偵として名を馳せる男である。

 

井上はその夜、ある奇妙な依頼を受けていた。

 

依頼人は著名な実業家の妻、佐藤悦子であった。

 

彼女の夫が最近、不審な行動を見せるようになったと言うのだ。

 

特に、毎晩のようにこの鍼灸院を訪れるようになり、それが何かしらの秘密と関係しているのではないかという。

 

井上は慎重に鍼灸院に足を踏み入れた。

 

院内は静まり返っており、ただ微かな艾の香りが漂っていた。

 

その奥で、一人の鍼灸師が作業をしていた。

 

彼の名は藤田。長年この地で鍼灸を営んできた男である。

 

「お灸を受けに来ました」と井上が声をかけると、藤田は静かに頷き、施術台に誘導した。

 

「お灸は体のツボに熱を与えて、血行を促進し、心身のバランスを整えます」と藤田は説明しながら、手際よく艾を用意した。

 

井上は静かに横たわり、藤田の動きを観察した。

 

藤田の手が井上の背中に触れ、艾を据えると、じんわりとした温かさが広がり始めた。

 

その温もりは、体の芯にまで届き、疲れた体を癒していく。

 

しかし、井上の心は警戒を解かず、目の前の鍼灸師の動きに集中していた。

 

「最近、この鍼灸院に来る人が増えましたか?」と井上が何気なく尋ねると、藤田は微かに笑みを浮かべた。

 

「はい、特に寒い季節になると、冷えを癒すために多くの方が訪れます。その中には著名な方も少なくありません」

 

「例えば、佐藤社長のような方も?」と井上がさらに問いかけると、藤田の手が一瞬止まった。

 

「佐藤社長ですか…確かに、よく来られます。最近、特にお疲れの様子でした」

 

井上は藤田の表情に微かな動揺を見逃さなかった。

 

お灸の温もりが背中に広がる中、彼の頭の中では様々な思考が巡っていた。

 

施術が終わると、藤田は丁寧にお灸を片付け、井上を送り出した。

 

井上は外に出ると、冷たい夜風に当たりながら、鍼灸院の明かりが消えるのを見つめていた。

 

翌日、井上は佐藤悦子と会い、昨夜の出来事を報告した。

 

「お灸には心身を癒す効果があります。しかし、夫がこの鍼灸院に通う理由はそれだけではないようです」と井上は言った。

 

「それでは、何のために?」と悦子が不安げに尋ねると、井上は鍼灸院の記録を調べる必要があると答えた。

 

そこには、おそらく佐藤社長が抱える秘密が記されているに違いない。

 

井上は再び鍼灸院を訪れ、藤田と話をする機会を得た。

 

「佐藤社長は、何か特別な治療を受けていたのでしょうか?」と井上が問いかけると、藤田はしばらく黙った後、重々しく口を開いた。

 

「実は、佐藤社長は特定のツボにお灸を据えることで、ある種の覚醒状態を得ていました。それは、普通の治療ではなく、彼自身が求めたものです」

 

その言葉に井上は驚いた。お灸の温もりが持つ力は、単なる治療法にとどまらない。

 

そこには、人の心と体の奥底に触れる何かがある。

 

井上はその真実を解き明かすため、さらに深く調査を進める決意を固めた。

 

佐藤社長の行動の背後に隠された謎。

 

その答えは、お灸の温もりの中に眠っているのかもしれない。