横浜お灸研究室 関元堂温灸院

横浜市のお灸専門 関元堂温灸院

温もりの記憶

雪が静かに降り積もる山間の小さな温泉宿。

 

その静けさの中、私はふとしたきっかけでお灸を試すことになった。

 

温泉の湯気が漂う中、古びた和室の一隅で、鍼灸師の先生が静かに待っていた。

 

「お灸は、体の中に滞る気を流し、冷えた部分を温めます。特に、冬の寒さに疲れた心身には効果的です」と、先生は言葉を選びながら説明した。

 

その声には、どこか懐かしい温もりがあった。

 

私は、先生の指示に従い、背中を出して布団に横たわった。

 

窓の外には、雪景色が広がり、白銀の世界が広がっていた。

 

先生は静かに艾を手に取り、背中の特定のツボに据えていった。

 

その手の動きは、まるで雪の降り積もる様子のように、静かで穏やかだった。

 

火をつけられた艾からは、じんわりとした温かさが広がり始めた。

 

その温もりは、まるで遠い昔、祖母が炊いてくれた囲炉裏の火を思い出させた。

 

冬の寒い夜、囲炉裏の火に手をかざし、祖母の温かな手に触れる感覚。

 

それと同じ温もりが、今、背中に広がっていた。

 

「お灸の熱は、体の深部に浸透し、心身を癒します。その感覚を楽しんでください」と先生の声が、静かに響いた。

 

私は目を閉じ、その温もりに身を委ねた。

 

寒さで縮こまった体が次第にほぐれ、心も次第に穏やかになっていくのを感じた。

 

雪の降る音が遠くに聞こえ、その静けさが、さらに心を落ち着かせてくれた。

 

お灸の温もりは、単なる熱ではなく、心の奥底にある記憶や感情を呼び起こす力を持っているのだと思った。

 

それは、忘れかけていた大切な記憶を、再び鮮明に蘇らせる力だ。

 

祖母の温もり、囲炉裏の火、そして冬の静けさ。

 

それらすべてが、一つの温もりに凝縮され、私の背中に伝わってくる。

 

治療が終わり、私はゆっくりと起き上がった。

 

体が軽くなり、心も晴れやかになっているのを感じた。

 

先生は穏やかな笑みを浮かべ、「お灸は、心身のバランスを整える素晴らしい手段です。またいつでもどうぞ」と言ってくれた。

 

外に出ると、雪はさらに深く降り積もり、白銀の世界が広がっていた。

 

私はその美しさに見とれながら、心の中に広がる温もりを感じていた。

 

お灸の温もりが、私の心に新たな記憶を刻み込んでくれたのだ。

 

その日、私はお灸の力を知り、その奥深い温もりを心に刻んだ。

 

冬の寒さの中で見つけたその温もりは、これからの私の人生においても、忘れがたい一瞬として残り続けるだろう。