その夜、私は一冊の古びた書物を手に入れた。
表紙は擦り切れ、ページは黄ばんでいたが、その内容には奇妙な魅力があった。
その書物には「お灸の秘術」と題された一章があり、そこには古代から伝わるお灸の神秘と恐怖が記されていた。
お灸とは、艾を燃やし、その熱を体の特定のツボに当てることで、病を治し、心身を癒すものである。
しかし、その書物には、一般には知られていない、恐ろしい側面が記されていた。
「お灸は、ただの治療法ではない。それは、人間の魂と体を繋ぐ門であり、その門を通じて異界の力が流れ込むことがある」と書かれていた。
私はその記述に魅せられ、実際にお灸を試してみることにした。
書物に記された通りの手順で艾を作り、背中の特定のツボに据えた。
火をつけると、じんわりとした熱が広がり、奇妙な感覚が体を包み始めた。
その瞬間、私は不思議な光景を目の当たりにした。
部屋の中がぼんやりと揺らめき、まるで異世界に引き込まれるような感覚が襲ってきた。
目の前には、見たこともない風景が広がり、不気味な影が蠢いていた。
「ここはどこだ…?」と呟く私の声が、異様に響いた。
その声に応えるように、不気味な影がこちらに向かってくる。
その影は人の形をしていたが、顔は無く、ただ暗闇だけが存在していた。
その存在が近づくにつれ、私は体が動かなくなり、冷たい恐怖が全身を包み込んだ。
「お灸の秘術は、異界との交信のために存在する」と書物にはあった。
私はその言葉を思い出し、恐怖に打ち震えた。
この影は異界から来た何者かであり、私の魂を奪おうとしているのではないかと。
影が私に手を伸ばした瞬間、私は激しい痛みに襲われ、意識を失った。
気がつくと、私は自宅の床に倒れていた。
お灸は消え、部屋には静寂が戻っていた。
しかし、体の奥底には未だにその恐怖が残っていた。
その後、私は書物を再び開き、その最後のページを読んだ。
「お灸の秘術は、慎重に扱わねばならない。異界の力を引き寄せることがあるため、その危険を理解し、適切に対処することが必要である」
私はお灸の持つ恐ろしい力を知り、その扱いに慎重を期することを心に誓った。
お灸はただの治療法ではなく、その奥には古代からの秘術と恐怖が潜んでいるのだ。
私たちはその力を軽視することなく、敬意を持って向き合わねばならない。