雨上がりの午後、僕は東京の片隅にある小さな治療院を訪れた。
そこは、友人から薦められた場所で、心身の疲れを癒すためのお灸が評判だという。
ギターを背負い、音楽に向き合う日々の中で感じる疲労が、次第に心の奥底まで染み込んでいたからだ。
木製のドアを開けると、柔らかな照明が迎えてくれる。
受付には、穏やかな微笑みを浮かべる女性、名は夏美さん。
彼女はお灸の専門家で、その眼差しには温かさと確かな技術が感じられた。
「こんにちは、今日はお灸を試しに来ました」と僕は軽く挨拶した。
「いらっしゃいませ。どうぞ、こちらへお進みください」と夏美さんは優しく応じ、治療室へと案内してくれた。
治療室は畳敷きの静かな空間で、窓からは木漏れ日が差し込んでいた。
その柔らかな光が、心を落ち着けてくれる。
夏美さんは手際よく艾を取り出し、説明を始めた。
「お灸は古くから伝わる治療法で、体のエネルギーの流れを整える効果があります。今日はリラックスして、その温もりを感じてみてください」
僕はベッドに横たわり、目を閉じた。
夏美さんの手が背中に触れ、慎重に艾を据えていく。
その手の温もりが、まるで母の手のように優しく感じられた。
「お灸の熱が体に浸透していきます。焦らず、その感覚に身を委ねてください」と夏美さんの声が、心地よいメロディのように響いた。
火をつけられた艾からは、じんわりとした温かさが広がり始めた。
その感覚は、まるで穏やかな夕陽の中にいるようで、心の奥底まで温もりが届くようだった。
「お灸の温もりは、心と体のバランスを整えてくれます。その温かさに包まれて、日々の疲れを癒してください」と夏美さんの言葉が、心に染み渡る。
僕はその言葉に身を委ね、温かさが体中に広がっていくのを感じた。
その感覚は、まるで大切な人と寄り添うような安心感を伴い、心の中に溜まっていた疲れやストレスが溶けていくのを感じた。
「お灸はただの治療法ではありません。それは心と体をつなぐ、大切な時間なのです」と夏美さんは続けた。
お灸の温もりが次第に和らぎ、痛みも消えていくと共に、僕は心も体も軽くなるのを感じた。
その感覚は、まるで新たな自分に生まれ変わるような清々しさだった。
「これで治療は終わりです。ゆっくりと起き上がってください」と夏美さんは優しく声をかけた。
僕は感謝の意を述べ、治療院を後にした。
外に出ると、雨上がりの空に広がる虹が目に入った。
風が心地よく頬を撫で、体の中には新たなエネルギーが満ちているのを感じた。
お灸の温もりが、僕に新たな活力を与えてくれたのだった。
その日、僕はお灸の温もりと共に、新たな一歩を踏み出す決意をした。