秋の午後、私は一人、都心の古びた一軒家を訪れた。
ここは伝統的な治療法を受け継ぐ名家で、お灸を施すことで知られている。
家の中に入ると、微かな艾の香りが漂い、過去と現在が交錯する静かな空間が広がっていた。
応接間で待っていると、やがて現れたのは白衣に身を包んだ美しい女性だった。
彼女の名は京子。
しなやかな動きと涼しげな眼差しが、どこか非現実的な美しさを感じさせた。
「いらっしゃいませ。お灸をご希望ですか?」と京子は静かに問いかけた。
「はい、心身の疲れを癒したくて」と私は答えた。
京子は微笑み、私を奥の和室に案内した。
薄暗い部屋の中、畳の上には整然とお灸の道具が並べられていた。
京子は手際よく艾を取り出し、丁寧に形を整えた。
「お灸はただの治療法ではありません」と京子は言った。
「それは魂の浄化でもあります。燃え上がる艾の火が、あなたの心の澱を焼き尽くすのです」
その言葉には、何か深い哲学的な響きがあった。
京子の手が私の背中に触れ、お灸を据えると、じんわりとした熱が広がり始めた。
その熱は次第に強まり、私の心の奥底に眠る感情を呼び覚ました。
「燃える艾の火を見つめてください。その火は、あなたの中にあるすべての不浄を焼き尽くすでしょう」と京子は続けた。
私は言われた通り、燃え上がる艾の火を見つめた。
その火は美しくも恐ろしいものであり、まるで私の内面を映し出す鏡のようだった。
熱と共に心の中の暗闇が明るみに出され、浄化されていく感覚に包まれた。
「痛みを恐れてはいけません。その痛みこそが、真の浄化をもたらすのです」と京子は言った。
お灸の熱が次第に強まり、私の背中に鮮烈な痛みが走った。
しかし、その痛みは奇妙な心地よさを伴い、私の中にある不安や焦燥を一つ一つ焼き尽くしていくようだった。
「あなたは今、新たな自分に生まれ変わろうとしています。その過程で感じる痛みを受け入れてください」と京子は静かに語り続けた。
私はその言葉に深く共感し、目を閉じて心の中の変化を感じ取った。お灸の熱が次第に収まり、痛みも和らいでいった。
その時、私は確かに何かが変わったことを感じた。
「ありがとうございました、京子さん。お灸の力を通じて、自分を見つめ直すことができました」と私は感謝の気持ちを伝えた。
「どういたしまして。またいつでもいらしてください。あなたの心と体が必要とする時に」と京子は優しく微笑んだ。
その日、私はお灸の熱と共に新たな自分を見つけ、家を後にした。
燃える艾の火が私の心を浄化し、再び歩み出す力を与えてくれたのだった。