ある晩、僕は友人の薦めでお灸を試すことにした。
長い一日が終わり、僕の体は疲れ切っていた。
世の中の喧騒から離れ、自分自身の内面と向き合う時間が必要だと感じたのだ。
お灸はそのための道具として、古い木箱に収まって、静かに待っていた。
部屋の灯りを落とし、僕はお灸を据えるために必要な準備を始めた。
窓の外には夜の風が静かに吹き、遠くで猫の鳴き声が聞こえる。
そんな静かな時間の中で、お灸の香りが漂い始めた。
艾の香りはどこか懐かしく、それでいて少し異国的だった。
まるで、昔の思い出がかすかに呼び起こされるような感覚だった。
お灸を皮膚に置くと、次第に暖かさが広がっていく。
暖かさはじわじわと肌の奥深くに染み込んでいき、僕の体の中に眠っていた何かが少しずつ目覚めていくのを感じた。
それはまるで、長い間忘れ去られていた古い機械が、再び動き始めるような感じだった。
その夜、僕は不思議な夢を見た。
夢の中で、僕は広大な草原を歩いていた。
風が草を揺らし、遠くの空には不思議な形の雲が浮かんでいた。
突然、僕の前に一匹の猫が現れた。その猫は僕をじっと見つめ、どこかに導こうとしているようだった。
僕は猫の後を追い、知らない街の路地裏にたどり着いた。
そこには、古いお灸の道具を売る店があった。
店主は年老いた女性で、彼女は僕に微笑みながら「このお灸はあなたの心の中の静寂を見つける手助けをしてくれるでしょう」と言った。
目が覚めると、部屋の中にはまだ艾の香りが漂っていた。
お灸の温もりは僕の体の中に残り、心は少し軽くなったような気がした。
現実と夢が交錯する中で、僕はお灸の持つ不思議な力に魅了されていた。
お灸はただの治療法ではなく、僕自身の内面を探求する旅の一部であることを、僕はその夜に知ったのだった。