伝統的なお灸を調べていると、上部胸椎周辺へのお灸をすることが多いことにも気づく。
上部胸椎とは、ツボでいうと、大椎から身柱のエリア内になる。
基本的には督脈になる。人体構造的に体に負担がかかりやすい部位でもある。
例えば、大椎に圧痛があったとする。
そして大椎(C7、T1)の可動性触診で、可動性に問題がある側を確認する。
その場合、左右の僧帽筋の圧痛がどこにあるか確認すると、大椎(C7,T1)の可動性と左右の僧帽筋の圧痛が一致することがある。
これは大椎と僧帽筋の関連を表していることが多いようだ。
大椎に関しては、伝統的に風邪のときにお灸で温めるとよいというのは有名であるが、僧帽筋が脾臓と関係があるので、免疫系と関係があるのかもしれない。
身柱に関しては、神経系統を統率するツボといわれていたと思う。小児疾患以外にも、全ての神経疾患に効果があるといわれている。
沢田流でもかなり重視されている。
疲労回復のツボとしても有名である。
身柱は、その名の通り、身の柱である。「ちりけ」といわれているが、塵気、散気とも書く。塵の気を散らすのである。
また和漢三才図会には、智利介とあり、これを沢田先生は「智の利をたすける」と解釈して、脳への効果を認めていたらしい。
僧帽筋が緩むことは治療効果を確認する上で、重要である。単純に首、肩、背中のコリや張りを治療前後で確認するだけもいい。
僧帽筋に関しては、内臓レベルで反射関係を調べると、中部や下部では脾臓が中心になりそうだが、上部では肝臓や腎臓の関係もあるようだ。
脾臓に関しては、広背筋も関係があるだが、僧帽筋と広背筋は相互に連動関係があるようだ。背部の筋肉を診る上では、僧帽筋、広背筋、脊柱起立筋を中心に診ていくことが初学者にはわかりやすいようだ。
リンパ・免疫系が関係していることから、風邪をひくと僧帽筋が凝ったり、張ったりしてくることがある。単純に考えても風邪をひくと肩が凝ることが多い。
上部胸椎と腹部内臓の関係は大きいようで、上部胸椎(上の後ろ)、腹部内臓(下の前)という斜体上下前後関係になる。
内臓の異常が上背部のツボに出やすい。
上背部に関しては心臓の異常も出やすいが、単独で出ていることは少ないように思う。これらを考えると腹診と背候診が重要ということが理解できる。
特に昔の日本人は、筋骨格のつくりが弱い人も多く、なで肩や背中の湾曲が強かったりして筋骨格的な影響から上背部にコリができやすかったのかもしれない。そのため伝統的な灸法では上背部にお灸をすることも多かったのかもしれない。
また筋骨格的な負担の問題だけではなく、内臓の疲労の反射も出やすく、上背部にコリのない人はあまりいないと思う。
1ヵ所のツボの使用でも全身に効果が出る。全体治療といっても、全身を検査をして、全身のコリ、異常部位を治療して、緩めることは局所的治療の集合でしかないことが多い。全体治療とは全身のバランスがどうすれば取れるのか、どのようにすれば気が機能するようになるのかを考えることではないだろうか。
単純に考えると、下腹部の丹田の気が充実し、力が入るようになると、背部の筋肉は緩むようである。逆にいうと、背部の筋肉が緩むと下腹部に力が入るようになるようである。