足三里は、鍼灸師では知らない人はいない基本的なツボである。
その昔、足三里の鍼だけで如何なる病気も治したという話も聞いたことがある。
原式灸法でも足三里は基本穴である。
ただし、子どもには成長を止めるおそれがあるから、足三里に灸はしない方がいいという意見もある。
また、沢田流では、胃酸過多のときは足三里ではなく、陽陵泉を使った方がいいと話もある。
足三里は経絡は胃経に属し、取穴は膝蓋骨の下縁から4横指下で、脛骨の外縁にある。
足三里は膝周りにあるので膝に関する疾患に使えるし、胃経に属するので胃を含む消化器系の症状に対する作用を持っている。
研究では、足三里を刺激すると胃酸が過剰に分泌されている場合はそれを抑えるように、また胃酸があまり分泌されていない場合はそれを促進するように、体が反応するのであるらしい。
ツボとは、体のある部分の働きが亢進していたり低下していたりするのを中庸に戻す作用がある。
足三里は歯痛や顔面の様々な疾患(目、耳、鼻)にも用いられる。
経穴学ではツボには五行穴、八会穴、四総穴、八総穴といった要穴のグループがある。
足三里は五行穴の中の胃の合穴に当たる。
合穴とは経脈の入るところとされる。
足三里が気に対する強力な作用を持っていることがわかる。
足三里が全身調整穴として使われる理由はこのあたりではないだろうか。
個人的には、足三里を全身調整穴として使う力量はないため、使うことは少ないが、足温灸の延長で研究分野をひとつ付け加える必要があるかもしれない。
ちなみに、松尾芭蕉が『奥の細道』の冒頭で「道祖神のまねきにあひて、取もの手につかず。もゝ引の破をつゞり、笠の緒付かえて、三里に灸すゆるより」と、旅に出る準備として足三里にお灸をしたと書いている。