ある晩、僕は自宅で一人灸をすることにした。灸を灯し、ほんのりと温かい感覚が広がるのを感じながら、窓の外に目をやると、月が静かに輝いていた。
「猫たちはどんなことを考えてるんだろうな」
ふと、思いがけない疑問が頭をよぎった。灸の温もりが僕の心を穏やかにし、何か不思議な感覚に導いてくれるようだった。
その晩、灸の温かさと月の光に包まれて、僕は猫たちとの会話を試みることにした。それはもちろん、人間と猫が実際に会話するわけではなく、心の中での会話だった。
「こんばんは、君たち」
僕は猫たちに向かって言葉をかけた。窓の外にいる猫たちが、耳を少し傾けているように見えた気がした。
「君たちが思ってること、僕にもわかる気がするんだ。どんなことが気になってるの?」
風が窓を通り抜け、灸の熱さが体を包む。猫たちの気配を感じながら、僕は続けた。
「夜空を見上げてると、僕も君たちのように、どこか遠くへ行ってみたくなるんだ。でも、ここで灸を灯してる間、君たちと話せるような気がするんだ。不思議だな」
ほんのりと照らされた窓の外で、猫たちは静かに佇んでいる。まるで、僕の言葉を聞き入っているかのようだった。
「君たちにとっての夜、それはどんな夜なんだろう。何か特別なことを考えてるのかな」
窓の外にいる猫たちの視線が、僕の心に寄り添うように感じられた。灸が熱くなる中、時間はゆっくりと流れていった。
やがて、灸の熱さが和らいできた。猫たちは静かに立ち去り、夜の静けさが戻ってきた。
「ありがとう、君たち。こんな風に話せるのも、灸のおかげかもしれないな」
窓の外にはもう猫の姿はなかった。けれど、灸の温もりと月明かりが、夜の会話を特別なものに変えていた。